日本だけでメル友が蔓延している理由

日本だけで“メル友”
が蔓延している理由とは

『ケータイを持ったサル』や『考えないヒト』(いずれも中公新書)などの著作で有名な京都大学霊長類研究所の正高信男教授は、「ケータイに代表されるIT社会の到来によって、日本では国民の均一性、斉一性がますます強化されてしまった」点や、「人間同士の足の引っ張り合いや、誹謗中傷が激しくなった」こと、さらには「人が物事を深く考えなくなったり、引きこもりが増えた」等々、数々の弊害が出ていると警鐘を鳴らす。

正高氏(以下、敬称略): 私はIT社会を象徴する最たるものはケータイだと考えています。ケータイは一般的には、“コミュニケーション・ツール”だと認識されていますが、私は既に、日本においてはコミュニケーションのためのツールではないととらえています。今や日本人にとってケータイは“自我の一部”になってしまっているのです。

日本では、四六時中、ケータイを使ってメールのやり取りをしている光景を至る所で目にしますが、欧米ではそういったことはありません。なぜ日本ではそういった現象が起こっているのか? 理由は簡単です。我々、特にビジネスパーソンがモデルにし、目指してきた欧米のIT社会における個人のあり方と、日本人の個人のあり方が根本的に全く異なるからです。つまり、西洋の近代主義が確立した“個人”というものが日本にはないのです。

日本における個人とは、“周囲との人間関係も包含したもの”です。一方、欧米の場合、『私は私、あなたはあなた』といったように、個人同士の間にある垣根がしっかりとしていて、その個人と個人の間にあるものが“付き合い”であり、その付き合いを円滑にするためのツールとして、ケータイやEメールを使っているのです。

しかし、日本のように、個人の垣根が低い国民性の中に、ケータイのようなものが入ってくると、元来“ツール”であるべきものが、“自我の一部”になってしまい、今のような現象が起こるというわけです。換言すると、元々低かった個人の垣根を超えるためのコミュニケーション・ツールとして、あまりにも日本人の国民性にピッタリ合っていたことが、ケータイが急速に普及していった最大の要因だと私は見ています。

――日本人と欧米人の国民性の違いによって、日本のIT社会は特異なものになってしまったというわけですね。日本人は昔から個人の垣根の低い国民なのでしょうか。また、そのことによって、どういった弊害が引き起こされているとお考えですか。

正高: 日本人には、元々“個人”というものがありませんでした。みのもんたもTVでよく「私たちのような名もなき庶民」と言っているように、日本の中にあるのは“庶民”であり、“世間”です。

少なくとも江戸時代以降、他人と違うことを行えば、“村八分”と言ってはじき出されるなど、日本には文化的、社会的背景として、他と異なることを嫌がる風土が根付いていたのです。要するに、日本人は元々、横並び主義、一線主義で、『一緒に群がっていれば安心』といった匿名性を重んじる国民だったのです。

そのため、他人が世間の注目を浴びるということに対する羨望(せんぼう)や憧れが強く、社会的な注目や賞賛といったことに対して高い価値を置きます。世間から突出すれば、『出る杭は打たれる』通りのことが起きたり、足を引っ張られたりしますし、逆に人から遅れをとれば、切り捨てられる社会なのです。

江戸時代以降、明治時代の後半、日露戦争の頃から国家権力が非常に強くなっていき、天皇制による支配に基づいた軍国主義に邁進していった時代がありました。しかしながら、第二次世界大戦で敗戦したのをきっかけに軍国主義は崩壊し、民主主義に変わりました。そして、民主主義が定着化した頃、今度はIT社会が到来したのです。

私は、日本はIT社会の到来によって、ある意味、江戸時代に戻ってしまったのではないかと考えています。いや、むしろ江戸時代よりも今の時代の方が、横並び主義は強化されているのではないでしょうか。なぜなら、ケータイやインターネットといったITツールは、空間や時間の拘束を受けないため、“世間”というものが江戸時代のような局地レベルではなく、全国レベルで出来上がってしまっているからです。

例えば、“メル友”ってありますよね。これは、“メールでコミュニケーションし合っている友達”という意味ではありませんよ。“メールを介して知り合った友達”という意味です。そして、日本の若者に『メル友はいるか?』と尋ねると、ほとんどの若者が『いる』と答えます。でもそれは、欧米人にとっては到底理解できないことです。彼らに言わせれば、メールを介して知り合い、メールでしかコミュニケーションをしていない人間が、自分の友達であろうはずがないからです。それを『友達』と抵抗なく呼べるのは、日本人がいかに個人の垣根が低いかを端的に表しているのではないでしょうか。

IT社会の中で、そういった日本人の国民性が悪い面で働くと、お互いの足の引っ張り合いや誹謗中傷となって表れます。それは日本のIT社会が基本的に“匿名性”だからです。欧米のような個人の垣根が高い国から来たITを日本に持ち込み、しかも情報源を匿名にしてしまうと、必ず、匿名性を利用したスキャンダラスな誹謗中傷が起こってしまうのです。

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